日曜日, 7月 12, 2015

「新・観光立国論」(デービッド・アトキンソン著)を読んだ


  • 観光立国についての話はいろいろな人の立論を聞くが、この本で指摘してあるポイントは、これまであまり意識していなかった点が多く、目から鱗が何枚も落ちた。
  • この本の著者は、イギリス人で元ゴールドマンサックスのアナリストである。経済提言の専門家なのだが、この人のユニークな点は国宝や重要文化財の補修を手がける会社(小西美術工藝社の社長に就き、日本の伝統文化を守る仕事をしている人であるという点だ。その人が、日本人が考えている観光立国政策は、まだまだ考えが浅いし、勘違いしてるところが多いんじゃないのと指摘しているのが本書である。
  • なるほどと思ったところをメモしておく。

  1. 外国人観光客は「短期移民」だ。日本に住み着くことなく、一定期間滞在するだけならば移民で問題となっているような文化や風習、宗教で日本人と衝突することがなく無用なトラブルが生まれない。ただし、一定期間とはいえ日本に滞在するので日本にいる人間の数が急激に増えることと同じで人口減によるGDP低下を抑えるのに有効。ただし、観光を産業として位置づけるのであるから、観光客数だけに注目するのではなく、お金をたくさん使ってくれる人々をより多く呼び込むことに着目する必要がある。
  2. 氏によると、日本は観光後進国である(GDPに対する外国人観光客から得た収入の比をみると、欧米諸国に比べて日本は際立って低い)が、観光立国になれる潜在力があるとのこと。それは、観光立国の4条件とされる「気候」「自然」「文化」「食事」について、日本はすべてを満たしている稀有な国であること。これは観光大国フランスやスペインと同様で、日本より観光先進国であるイギリスより条件がいい(イギリスは気候や食事の面では恵まれていない)。
  3. 日本人は、先の4条件以外の「国の知名度」「交通アクセス」「治安のよさ」等の条件を挙げていることがあるが、これらは「ないよりもあった方がいいという程度の強み」。この3つをみたしていればそれだけで「観光立国」を実現できるものではない。とんでもない観光資源があれば、不便であっても人はやってくる。ただべんりだからといっても、そこに見るもの、楽しむものがなければ、人はやってこない。「気配り」「マナー」「サービス」「治安」というのも、的外れ。「文化や歴史」「自然」という項目が日本人の意識に上っていない。「食事」が入っているのが唯一の救い。
  4. ゴールデンウィークに象徴される「多くの人たちをさばく観光」から、「お金を落とす客にきてもらう観光」へ、発想を180度転換すること。日本国内の「おもてなし」にまつわる議論を聞いていると、すべての人に対してにこやかに微笑んで、分け隔てなく対応するという、なにやら見返りを求めない「奉仕の心」のようなイメージが浸透しているがナンセンス。異国に人々の「性格のよさ」や「奉仕の心」等を確認するためだけに、高いお金と時間をかけて海外旅行をしようなどという人はいない。それはあくまで観光のついでに遭遇した「ちょっとした現地の人とのふれあい」程度の話。
他にもあるが、これぐらいにしておく。
この中では、4番目がちょっとひっかかるところか。私なんかが学校で強調されたのは、見返りを求めない奉仕の心だった。この点に重点をおかないところはドイツ人と日本人の違いだろう。しかし、「多くの人たちをさばく観光」というのが、日本の現状。供給者サイドの都合ばかり優先されていることに、腹を立てている、あるいはそれに慣れてしまっている日本人は多い。サービスを受ける人の立場にたって、奉仕の心のような高度なものを提供する前に、観光業者自身の都合で、ゴールデンウィークにここぞとばかり儲けるようなパックサービスの発想は大問題だと思った。

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